プロセスワークについて

成立から現在まで

プロセスワークは、プロセス指向心理学 (POP=Process Oriented Psychology)とも呼ばれます。心理療法としての特色を強く持っており、何かしら問題や葛藤がある場合に解決を見いだす方法としても有効ですが、 自覚(awareness)を何よりも重視するという生き方の提示でもあり、ふつうの意識状態ではつかまえにくい微細なものや自らを超えた大きな力にふれることを促すという意味ではスピリチュアリティの実践でもあります。創始者アーノルド・ミンデルの拠点オレゴン州ポートランドを中心に、世界各地にトレー ニングプログラムがあり、常に変化を続けているアプローチです。

プロセスワークの背景をなす考え方としては、ユング心理学、量子物理学、カルロス・カスタネダなどが紹介するシャーマニズム、道教や仏教などがあります。これは、創始者アーノルド・ミンデルが、マサチューセッツ工科大学で物理学を学んだ後にスイスのチューリヒでユング派の心理分析家となり、またシャーマニズムに深い関心を持っていることを反映しています。また道教は、ユング心理学のルーツの一つでもあります。


アーノルド・ミンデル氏
プロセスワークの始まりは、1970年代にミンデルが身体症状と夜見る夢との間に意味深いつながりを見出したところにあります。身体症状がどのように経験されているかをていねいに辿り、その際のなにげない言葉や、意識せずに体が発するシグナルに気づいて、パターンを見つけていくと、夜見る夢に現れたイメージが自然に思い出され、その人の人生にとって重要なメッセージが明らかになることが繰り返されたのです。ミンデルはその現象を「ドリームボディ」と名づけ、当時はこの手法を<ドリームボディ・ワーク>と呼んでいました。80年代前半には、ミンデルと彼と興味を同じくする共同研究者たちがこのワークのトレーニングプログラムをチューリヒで開始します。

あまり意識されないで発せられる言葉や体のシグナルをていねいに辿ってパターンを見つけるという手法はまた、通常と違う意識状態にある人、つまり精神病状態や昏睡(コーマ)状態にある人とのコミュニケーションにも有効であることがわかりました。さらにこの手法は、個人だけではなく、カップルやグループにも効果的であることがわかってきます。

これに伴って<ドリームボディ>の概念は、夢と身体症状にとどまらず、この世界のあらゆる物事を作り出す根源的な創造力<ドリーミング>として拡大されます。<ドリーミング>という呼び方は、オーストラリア先住民の夢についての概念(物事は、現実に存在するに先立ってそのドリーミングが存在する。例えば、カンガルーというドリーミングが先にあったからこそカンガルーが存在する。カンガルーを殺すことはできても、カンガルー・ドリーミングを殺すことはできない)を借りたものです。

プロセスワークでいう<ドリーミング>は、道教では「道」、多くの宗教では「神」、物理学では「量子の世界」と呼ぶような、宇宙そのものを作り出す根源的レベルとして常に動き流れているものです。ドリーミングは、夜見る夢に限らず常に起こっており、気づきのレベルを変えることで、目覚めていてもドリーミングに気づくことができます。この絶え間ない動き=ドリーミング・プロセスに気づいていこうとする試みとして、<ドリームボディ・ワーク>から<プロセス指向心理学>に名称が変わりました。その後さらに、心理学という枠組に収まりきらないことから、<プロセスワーク>という呼称が使われ始めます。

80年代の終わりにミンデルは、地球全体をクライアントとする、という夢を見ます。90年代に入ると、その夢にしたがって、世界規模にわたる社会問題およびコミュニティや組織など集団の問題に取り組むグループワークの手法<ワールドワーク>を活発に展開します。また、90年にはミンデルと共同研究者たちがチューリヒから北米オレゴン州ポートランドに移り、プロセスワーク研究所 Process Work Institute (旧:ポートランドプロセスワークセンター PWCP)を開設します。

90年代後半になると、ミンデルは<センシエント>という概念を提唱し始めます。これは、夜見る夢よりもさらに一段深く、根源的な力<ドリーミング>から発せられるメッセージがまだ混沌と未分化で、夢のイメージや体のシグナルなど具体的な形になる前の領域をいいます。この領域はものごとが分化し対立が始まる以前の、すべてが一つにつながった大地のような状態でもあるので、そこに触れることで葛藤の解決が訪れることもあります。

夢のイメージや体のシグナルはまだ形や色があり、私たちの通常の感覚でもつかまえられ、言語化することができますが、センシエントな体験は非言語的なごく微細な体験や感覚です。ミンデルは、この体験に触れる力(感覚)を鍛えることにより、ふつうは見過ごしてしまう日常的な世界の背景をより深く学んでいくことを提唱しています。原子より微細な世界を記述するために量子力学という新しい物理学が生まれたように、ミンデルはセンシエントという概念によって、心理学の世界のごく微細な領域を切り拓こうとしているともいえるでしょう。

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